2 人間にはいろんなタイプがある。 性格が正反対でもタイプの合う人間はいるものだ。 つまりは御剣怜侍と矢張政志がそれであった。 「フーン、アイツにゃ言えないのね…じゃ、オレが聞くしかないわけだ」 常人ならひきまくってしまう御剣の逆ギレにもまったく動揺しない。 壁にかかった古臭い時計に視線を投げると、時間になったら帰るぞ、 と念を押してからお茶を頼む。 長居する気配を察知してか、疲れた顔をした店員はドンと乱暴に湯飲みを二つ置いていった。 「ま、ともかく話してみろ。聞くだけ聞いてやっから」 「ふ…」 「ふ?」 「触れたいのだ…」 さっき大声を出したことで極度の緊張状態からは解放されたのだろうか、 しばらく逡巡したのちにやっとのことで出てきた御剣の第一声は、 裁判所で張り上げている声からは想像つかないほど弱弱しい。 「触れたい?何に」 「それは…何と言うか…あ……」 「あ?」 「いや…そ…その」 血の気の少ない御剣の顔がみるみるうちに朱に染まる。 しかも目があらぬ所をさまよっている。 「…何と言えばいいのか…こ…こ、こ、この……」 「この?」 「…気持ちが……」 (ははぁ〜…) 御剣の言葉は赤面したままうつむいた口の中に消えてしまったが、 矢張にはもう充分だった。 どうやらなんとも意外というか珍しいというか面白いというか。 相談内容は『恋愛』だったらしい。 (ま、成歩堂なんかには相談したくないよなぁ。 あいつは男の甘いロマンを解するって気持ち?が足りねぇもん) 愛の放浪者を自称する矢張である。 よく言えば恋愛経験豊富、 悪く言えば長続きしない、ということだが、それはこの際関係ない。 とりあえずは人生の先輩として、初心で奥手で童貞(と矢張は勝手に決め付けた) の御剣に正しい恋愛のはじめ方だけ説いてやればいいのだ。 それもあの『御剣怜侍』に。 顎鬚を引っ張りながら優越感とうきうきとした好奇心でにやけた顔をひきしめる。 矢張はテーブルに身を乗り出すと、余裕たっぷりかつ真剣そうな表情を装いながら 目の前で茹だっている相手に声をかけた。 「あ〜わかったわかった」 「いや…だから…」 「うんうん、それ以上言わなくていい。つまりは触りたいんだな?」 「…うむ」 「触ってスリスリペタペタなでなでしたいってわけだ」 「……なでなでと言うよりホワホワなのだが…」 「ふん、ホワホワ……」 ホワホワ? 巨乳に顔を埋めたいってコト? (…実はこいつマザコンのケがある…っと) 「何だ?」 「いや、何でもねぇ。で、まぁおまえはホワホワしたいわけか」 「……うむ」 「ま、相手が誰だかは知らねぇけど…ともかくだな!」 そこでビシィッと指を突きつけた。 成歩堂の真似をしてみたのだが、幾分とんがり具合と気迫が足りない。 しかし、平常心を失っている御剣には充分効果があったらしく、グッと仰け反っている。 「ともかく……相手にその気がないのにホワホワしたらただの痴漢だ!」 「ち、ち、ち、ちか、痴漢…ッ!」 「痴漢はいけねぇ」 「あ、当たり前だ!私は検事だぞ!そ、そ、そんな強制猥褻罪に当たる行為など…」 「キョウセイワイセツだかはどうでもいいんだよ。重要なのは……」 「重要なのは…?」 「まず双方恋におちなきゃいけねぇってことだ」 |